「へそ展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、
さまざまなプロセスと試行錯誤(と、ときどきドラマ)があります。
〈「へそ展」日記〉は、「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」展、
略して「へそ展」が出来上がり・閉幕するまでの舞台裏を、
府中市美術館から発信するブログです。


おかしな猛禽類

へそ展には、猛禽類を描いた作品が3点出品されます。鷹や鷲ではなく、梟(ふくろう)と木兎(みみずく)です。どちらも同じフクロウ科ですが、耳のように見える「羽角」があるのが木兎です。羽角は耳ではなく、文字どおり、羽毛です。

 

まずは、以前にも図録制作チームのツイッターでご覧いただいた、徳川家光の《木兎図》。家光の乳母、春日局の子、稲葉正勝が創建したお寺、東京の千駄木にある養源寺に伝わった作品です。かわいらしさに心をわしづかみにされる方は多いと思います。

 

それから、博多の禅僧、仙厓さんが描いた《小蔵梅花図》。これもすでにツイッターでご紹介した作品です。梅の花にとまっているのは、梟。あまりに面白い描き方ですが、画面の真ん中の大きな文字も気になるところでしょう。実は、梟の鳴き声に関わる、あるダジャレです。その謎は、ぜひ、へそ展の会場や図録の解説をご覧ください。

   

 

そして猛禽類を描いた三つめの作品は、江戸前期の京都の画家、狩野山雪の作品です。木にとまって、きょとんとする梟を、二羽の小鳥が見ています。画面に添えられた禅僧の言葉によると、どうやら梟という鳥は、姿や鳴き声が特異なせいで、かわいそうな身の上にあったようなのです。心なしか、山雪の描く梟も愁いを秘めているようで、しんみりとさせられます。

 

家光の作品は展覧会の全期間、仙厓の作品は後期、山雪の作品は前期に、ご覧いただく予定です。一度に展示できなくて申し訳ないのですが、ぜひ、おかしな猛禽類に会いにいらしてください。

(府中市美術館、金子)

 

 

麟祥院の襖絵

先日、ある取材の方から「今回の展覧会の準備で思い出深いことは何ですか?」と聞かれました。準備はまだ続きますが、今までを振り返っただけでも、思い起こすことはたくさんあります。

 

京都の妙心寺の塔頭、麟祥院には、海北友雪が描いた江戸時代前期の竜の襖絵があります。もちろん凄い竜なのですが、表情がとぼけているというか、見る人を不思議な世界に誘ってくれるような目をしています。一筋縄ではいかない禅の世界の奥深さを、見ただけで感じることのできる作品だと思い、ご出陳をお願いしようと決心しました。

 

伺ったのは、こともあろうに8月の後半。妙心寺の広い境内を歩いていると、滝のような汗が流れます。なんとか汗を拭って、ご住職にお目にかかりました。「へそまがり日本美術」などという展覧会で、「けしからん」と叱られるのを覚悟していたので、ご出陳のお許しをいただいた時は、夢のようでした。

 

そして10月の終わり。今度は最高に気持ちの良い季節に、カメラマンや図録編集チームのスタッフと、作品の撮影に伺いました。襖なのでお堂の所定の場所にはめられていますが、その状態とは別に、作品としての写真は、1面ずつきっちり、正面から撮らなければなりません。1面ずつ外して、立てかけて、ライティングの具合やカメラの位置をしっかり調整して撮影します。図録やチラシなどの印刷物にする時は、そうして別々に撮った写真をつなぎ合わせて使います。運搬用の箱を作るために、作品の厚みなどを含む正確な大きさも測りました。

 

撮影は順調に進み、良い写真を撮ることができました。しかし撮影の後、襖を元の位置に戻して、まだお堂の天井の電灯を点ける前に私たちが体験したのは、本当の自然の光のもとでの光景でした。昼でも薄暗い空間で、大きな竜が、自らが呼ぶという雨雲に包まれて姿を見せています。迫力、美しさ、凄さ……そんな言葉では言い表せません。鈍く輝く金色の竜の目に見つめられながら、紙と墨という物質が発する何かに包まれるような、不思議な体験でした。図録には、お堂の様子がわかる写真も載せる予定ですので、ぜひご覧ください。

(府中市美術館、金子)

「春の江戸絵画まつり」

へそ展を担当している学芸員の金子です。今日は、初の「へそ展」日記を書かせていただきます。

といっても、話題は「春の江戸絵画まつり」についてです。特にこう呼ぶようになったのは2012年からですが、それ以前から、毎年春に江戸絵画の展覧会を開催してきました。タイトルを書き出してみると……

 

2005年 百花の絵 館蔵の江戸時代絵画と関連の優品

2006年 亜欧堂田善の時代

2007年 動物絵画の100年 1751-1850

2008年 南蛮の夢、紅毛のまぼろし

2009年 山水に遊ぶ 江戸絵画の風景250年

2010年 歌川国芳 奇と笑いの木版画

2011年 江戸の人物画 姿の美、力、奇

2012年 三都画家くらべ  京、大坂をみて江戸を知る

2013年 かわいい江戸絵画

2014年 江戸絵画の19世紀

2015年 動物絵画の250年

2016年 ファンタスティック 江戸絵画の夢と空想

2017年 歌川国芳 21世紀の絵画力

2018年 リアル 最大の奇抜

2019年 へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで

 

すべてを書き出したのは私も初めてですが、いかがでしょうか? ご覧になった展覧会はありますか?

どんなテーマの展覧会でも、洋風画家、司馬江漢の作品が並ぶことが多く、何人かのお客様から「江漢の単独の展覧会を!」と、リクエストされたことがあります。ところが、実は2001年の秋に、「司馬江漢の絵画 西洋との接触、葛藤と確信」展を開催しているのです。当館がオープンした翌年だったこともあって、まだ館の知名度が低く、宣伝も今より下手だったと思います。そのため、近年の展覧会ほど多くの方にご覧いただけなかったのが、少し残念です。

へそ展は、「春の江戸絵画まつり」としては15本め、当館の江戸絵画展としては16本めの展覧会となります。

 

館の前の桜並木は、毎年、のどかで、とろけるような、明るく美しい光と空気に包まれます。かと思えば、すぐに若葉の時期。一年のうちでも、ほんのわずかな時にだけ見られる若葉の色も格別です。美しい景色と一緒に「春の江戸絵画まつり」をお楽しみいただければ、担当者としてこんなに嬉しいことはありません。

(府中市美術館、金子)

記者発表会、開催しました!

12月19日、「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」の記者発表を行いました!

今回の展覧会は、府中市美術館恒例の「春の江戸絵画まつり」のひとつです。担当は、金子信久学芸員。世の「かわいい美術ブーム」に先駆けて、2013年に「かわいい江戸絵画」展を開催するなど、これまでも数々のユニークな展覧会を手がけてきました。その金子学芸員が自信を持って企画した「へそまがり日本美術展」。是非とも、ひとりでも多くの方々にご来場いただきたい、ということで、今回は府中市美術館としては珍しく、記者発表を行うこととなったのです。

そして、せっかく記者発表に来ていただくのなら、ぜひ、本物の作品を前に「へそまがり日本美術」の魅力を実感して欲しい、ということで、当日、会場で実物をご覧いただくことにしました。

出品作品はすべて、金子学芸員の「一押し作品」。どれをご覧いただくか、とても悩んだ結果、本展での初公開作品の中から、いくつかを選んで紹介することに。どれも破壊力抜群! 会場にいらした記者の皆さんも、楽しんでくださった様子でした。

 

徳川家光の初公開作品にも注目が集まりました。写真は東京・千駄木の養源寺が所蔵する《木兎図》。保存状態を考慮して、掛けずに広げてご覧いただきました。

 

会場には、掛軸の箱も展示したのですが、これを「箱は滅多に見られませんよね」と、興味を持ってくださった方も多かったです。

 


会場は美術館ではなく講談社ということもあって、どこに、どのように掛軸をかけたらよいか、どうしたら作品を鑑賞しやすいか、といったことを、じっくり考えながら、手作りで会場設営もがんばりました(学芸員さんは、DIYが得意だということを知りました!)。

年末も押し迫っての開催、どれだけの方々に来ていただけるものか、ほんの少し心配もしていたので、たくさんの方々にお運びいただき、また、それぞれの魅力的な記事に仕上げていただき、改めて感謝申し上げます。どうもありがとうございました!
(図録制作チーム、久保)

 

取り上げてくださった記事の一部、以下にご紹介させていただきます。

○朝日新聞デジタル
徳川家光は「ヘタウマ」画家? 水墨画を公開へ
https://www.asahi.com/articles/ASLDM3V5YLDMUCLV007.html

○インターネットミージアム
「へそまがりな感性」で日本美術史を展望
https://www.museum.or.jp/modules/topNews/index.php?page=article&storyid=4285

○Yahoo!ニュース
将軍家光のヘタウマ絵「これはウサギなのか?」
不完全だから面白い「へそまがり日本美術展」来春開催
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20181221-00010000-danro-life

○Japaaan Magazine
殿、可愛すぎますぞ! 江戸幕府3代将軍「徳川家光」が描いた
脱力系ユルふわ日本画がついに初公開

殿、可愛すぎますぞ!江戸幕府3代将軍「徳川家光」が描いた脱力系ユルふわ日本画がついに初公開

○へそ展ツイッターでも、紹介記事のことなどツイートしています!

ポスチラって大変。

「へそまがり日本美術 禅画からヘタウマまで」展、ようやくポスターとチラシが出来ました!
私は図録制作チームの編集者ですが、美術展覧会のポスチラ(美術館の人たちは、ポスターとチラシをまとめてこう呼んでいます。便利!)のお手伝いは初めてです。ついつい仕事の大きさをページ単位で考えてしまいがちな私にとっては、たった1ページのポスター、4ページのチラシが、いかに丁寧に作られているかを知ることのできた、貴重な機会でした。


こんなラフ(レイアウトの見本みたいなもの)が見事なチラシに変身。デザイナーさんってすごい、といつも思います。


丁寧に色の校正を重ねて、校了します。青っぽ過ぎたので、シアンを引いて再校を出してもらいました。右が初校、左が再校。


銀の特色にスミを乗せたら、ムラになってしまったので、印刷所の助言にしたがって、文字と絵柄の部分だけ銀を抜いてもらいました。右が初校、左が再校。


いろいろ経て、無事納品!

 

 

チラシの中身、こんな感じです!

目下、全国に発送中です。ポスターは、年内から少しずつ張り出されると思います。どこかで見かけましたら、「あ、へそ展のポスターだ」と写メしてSNSなどに投稿してくださると嬉しいです。
へそ展もTWITTERありますので、よろしければフォローもお願いいたします!

(図録制作チーム、久保)

床の間ってすごい! 掛軸撮影@京都・無鄰菴①

「へそまがりな絵」が、実際に暮らしの中にあったら、どんな雰囲気なのか──
昔の人たちの気持ちを少しでも想像することができたら、と考えて、掛軸を床の間に飾った写真を撮影し、「へそ展」の図録に掲載することにしました。
撮影の場所は、京都、南禅寺近くにある名勝・無鄰菴です。

先日、古書画屋さんで見せていただいて、出品が決まった長沢蘆雪の《猿猴弄柿図》。とてもアクの強い顔の猿なのですが、床の間にはすっと馴染みます。そして、なんとも品のある作品だということがわかりました。床の間の包容力、すごいです!

サイズを測るのも大事な仕事。

たくさん並んだ箱の中から、次に撮影する作品を、古書画屋さんに出していただきます。

   

無鄰菴は明治・大正時代の政治家山縣有朋の別荘でした。母屋・洋館・茶室の三つの建物と庭園から構成されていますが、何より素晴らしいのは、東山を借景に広がる庭園。ごく浅い水流がサラサラと流れているのが、とっても綺麗なのですが、これを保つため、日々、庭師の方々が手を入れているそうです。南禅寺界隈の別荘群では唯一、通年で公開されている庭園なので、今度はゆっくりと、訪ねて見たいと思いました!
(講談社図録制作チーム、久保)

蘆雪の「へそまがり猿」@京都の老舗・古書画屋さん

出品作品が決まるまで、担当の学芸員は「へそまがり日本美術」にふさわしい作品を探して、作品調査の旅を繰り返します。旅先は日本各地の美術館・博物館であったり、個人のご所蔵家であったり、さまざまです。
この日は、京都の老舗の古書画屋さんへ。なんと、ご主人が最近見つけたばかりの長沢蘆雪の《猿猴弄柿図》をいち早く、見せていただきました!
(講談社図録制作チーム、久保)

   

真っ赤な顔、黄色い目、コウモリのような耳……。「かわいさ」とは無縁のその姿に蘆雪の「へそまがりな感性」が感じられます。


江戸絵画には必ずしも、もともと名前があるわけではないので、初めて作品が出てきた場合、展覧会出品に際して、どんな名称にするのか悩みます。今回は、箱にかつての所蔵家がつけたラベルが貼ってあったので、そこから《猿猴弄柿図》の名を引き継ぎました。

 

 

一癖も二癖もありそうな顔立ちの猿。「へそまがり日本美術」にぴったりです。

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