みどころ

神話、音楽、ダンス……インドのすべてがここにある

 インド細密画は、16世紀後半から19世紀半ばに、ムガル帝国やラージプト諸国の宮廷で楽しまれものです。一辺20センチ程の小さな画面には、ファンタスティックな神話世界、豪華な衣装に身を包んだ王の肖像やしなやかなポーズの女性たちが、繊細な筆で描かれています。あえて小さな画面に描かれたのは、「見る人と絵が一対一で対話をする」という考え方があったからです。絵と静かに向き合い、対話を重ねることは、魂を清める行為でもあったと言います。
 美しい線と色に彩られた宝石のような絵の中には、豊かな大地から生まれた人々の自然を崇める心や感性、情熱的な信仰心が込められています。古代以来、複雑で深遠な文化を築いてきたインドのすべてが刻まれているのです。
 本展覧会では、インド細密画の優品120点を紹介します。西洋絵画とも日本絵画とも違う、インド細密画の美の世界をお楽しみいただき、インド文化への興味を深めるきっかけともなれば幸いです。

みどころ1インドの神々と英雄たちの世界

世界を維持するヴィシュヌや破壊と再生を司るシヴァらヒンドゥー教の神、あるいは、古代の叙事詩『ラーマーヤナ』に登場するラーマ王子やハヌマーン。神々や英雄は細密画の中心的モチーフです。私たちには縁遠いようにも思えますが、仏教を通じて日本にも伝わり、例えば、ヴィシュヌは馬頭観音、シヴァ神は大黒天となりました。『ラーマーヤナ』も桃太郎の物語の起源とも言われています。実はインドは、私たちの文化のルーツにも関わっているのです。

ヴィシュヌとラクシュミ
ラージプト絵画
19世紀中頃

ヒマラヤの薬草山を持ち帰る猿王ハヌマーン
ラージプト絵画
1710-20年

みどころ2音色を絵にする

感情を直に揺さぶることを大きな目的とするインド芸術では、音楽はとても重要視されました。細密画でも音楽は大切な主題です。例えば、ラーガマーラ(楽曲絵)と呼ばれるものがあります。宮廷では季節や時間にふさわしい曲が演奏されましたが、それぞれの曲の旋律の型、音色そのものを絵画化したものがラーガマーラです。日本や西洋にはないインドならではの伝統と言えます。

アサヴァリ・ラーギニー
ラージプト絵画
1760年頃
朝に演奏される曲の旋律型の一つ「アサヴァリ・ラーギニー」を描いている。

楽器を持つ女
ラージプト絵画
1760年頃

みどころ3愛の絵画

「愛」を芸術のテーマとするのは、インドに限ったことではありません。しかし、インドには古代から愛を描く文学の深い伝統があり、さらに、ヒンドゥー教の発展の中で、恋人を愛するように神を深く慕うことを尊ぶ信仰の形も生まれました。そのため、神々の愛の物語、人間の世界の愛など、愛のテーマの数々が絵画を彩ったのです。

宮廷のクリシュナ
ムガル系絵画
1770-80年

みどころ4色彩と線の美しさを味わう

インドでは、西洋絵画のようにリアルに描写することを追求しませんでした。色彩や線描といった造形の美しさが、絵を見る人の心に働きかける力を重視したからです。例えば、輝くような黄色の絵の具はインドの特産で、フェルメールら西洋の画家にも愛されましたが、インドの画家たちは、あえて濃淡や陰影をつけず、色の美しさを生かそうとしました。

神の出現
ラージプト絵画
18世紀中頃

憩うクリシュナとラーダ
ラージプト絵画
1780-90年

みどころ5インドらしさあふれるラージプト絵画

本展覧会は、日本画家、インド美術研究家の畠中光享氏が半世紀に渡って収集したインド美術コレクションから細密画の優品およそ120点を紹介します。インド細密画は、描かれた地域によってムガル絵画とラージプト絵画に大別されますが、畠中コレクションの特徴は、特にインドらしさが色濃く表れたラージプト絵画が充実していることで、世界有数のラージプト絵画の個人コレクションと言えます。日本ではまだ見る機会の少ないラージプト絵画をお楽しみください。

神々を礼拝するジョダプールの王マン・シン
ラージプト絵画
1795年

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