「ふつう展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「ふつう展」日記は、「ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります 京の絵画と敦賀コレクション」展、略して「ふつう展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


春日大社へ行って鹿をひたすら見つめただけの話

動物展、後期展示の見どころのひとつ、『春日鹿曼荼羅図』(展示は11月14日まで)と、『鹿図屏風』。

▲重要文化財『春日鹿曼荼羅図』
▲『鹿図屏風』

 

展示室でモローの『一角獣』から振り返って、この2点が並ぶ様は、まさに「ファンタスティック」! 『春日鹿曼荼羅図』が描いた、得も言われぬ空気感がもたらす神秘さ。『鹿図屏風』の大きさと金箔の輝きで迫り来る鹿たちの躍動感。その神々しさ、美しさに思わず息を呑みます。

 

神の使いとされ、神々しさをもって描かれた鹿。ご存じのように、奈良公園一体には今なお棲み続けています。

 

ということで、今回は図録制作にあたり『鹿図屏風』の作品撮影のため訪れた春日大社で、ただひたすら鹿にまみれて、その「神秘」を体感してきたというレポートをお届けします。

 

JR奈良駅から春日大社のある奈良公園をめざしていると、さっそく。

 

▲商家をのぞきこむ鹿
▲何かを待っているのでしょうか

 

奈良公園とその周辺一帯に生息する「奈良のシカ」は現在1200頭弱。奈良公園は街と一体化した都市公園ですから、鹿さんたち普通に路上をフラフラしています。街の風景に鹿が溶け込んでいます。

いよいよ公園に入っていきます。

神様の使いとして、1000年以上も大切にされてきた鹿。本来とても臆病ですが、その歴史からか、まったく人を恐れる様子はありません。ヨーロッパでは人と動物の境界が宗教でしたが、日本ではその宗教観ゆえに、野生動物とこんな距離感で共生してきた、その不思議にあらためて思いを馳せます。

それにしても、いくら眺めていても飽きません。

ベンチで休んでいても、気がつけば横に佇んでいます。

▲か、かわいい

 

訪れたのは8月の暑い盛り。この日も猛暑日でしたから、水浴びするコたちが気持ちよさそうです。

そして、一心不乱に水草を食べるコ。鹿は基本草食で、主食はノシバとのことですが、こんなものも食べるのですね。

▲おいしいのでしょうか?

もちろん、春日大社の参道にもたくさんいます。

▲つよそうなコに会いました
▲鹿の角は毎年生え替わるそうです

 

売店前に陣取るのは「鹿せんべい」待ちでしょうか。

そして、やっぱり鹿せんべい、あげてみたいですよね。でもこれが、なかなかの恐怖体験。あちらこちらで、子どもや女性の叫び声が!

鹿せんべいを手にするやいなや、群れで突撃してきます。そして、あっという間に吸い込んでいきます。もぐもぐ食べる優雅な様子を想像していましたが、本当に吸い込むんです。一瞬です。

なくなったら即解散。この間1分もありません。

そんな散策を続けるなか、参道脇でこの日もっとも神々しい光景にめぐりあいました。

授乳中の親子です。授乳中の母鹿は攻撃的になるため不用意に近づいてはいけないとのことで、望遠レンズで捉えています。

▲この脚の角度!

こうした生命の営みをこの距離感で見つめていて、その姿に奇跡というか、神を感じる。それが絵画に描かれる……そんな「まなざし」について考える散策でした。

『春日鹿曼荼羅』の展示は今週末の14日(日)まで。『鹿図屏風』は会期末まで展示されます。どうか動物展で「奇跡」に触れてください。

 

(図録制作チーム、藤枝)

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