「ふつう展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「ふつう展」日記は、「ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります 京の絵画と敦賀コレクション」展、略して「ふつう展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


「美術品輸送」というお仕事のこと、聞きました!(前編)

展覧会ができるまでのあれこれをお伝えしています、府中市美術館「春の江戸絵画まつり」特設サイト。今回は、「ふつうの系譜」展の作品輸送に携わってくださった、ヤマト運輸の方々に、美術品輸送のお仕事について、色々とお話をうがいました!

▲開幕直前の展示室で、お話を聞かせてくれたヤマト運輸の美術品輸送課の方々。左から森内翔澄さん、藤原大さん、三宅璃咲さん。

 

ー私は図録編集チームの編集者なのですが、「美術品輸送」というお仕事のこと、これまで全然知りませんでした。府中市美術館でのお仕事を拝見していますと、作品を包んで、運んで、展示して……「美術品輸送」という言葉から連想される業務以上に、とても幅広いお仕事なんですね。

 

藤原大さん(ヤマト運輸/以下、藤原) もともとは美術品の輸送業務から始りましたが、美術品は特殊な形状のものも多いので、その輸送にあたっては、作品の安全のために梱包もさせていただくことになりました。それがさらに発展して、輸送・梱包以外にも、作品の展示から撤収まで、展覧会に携わる業務を含めたサービスという形を取らせていただくようになりました。

 

ー藤原さんはこのお仕事に携わって、どれくらいになるのですか?

藤原 この前、25年を超えました。

 

ーヤマトさんのお仕事といえば、一般的には宅急便を思い浮かべる方が多いと思うのですが、藤原さんは、はじめから「美術品輸送」というお仕事があることをご存知で、入社なさったのですか?

 

藤原 僕はアルバイトから入ったのですが、その時の募集で初めて、「美術品輸送」という部門があって、展覧会に関する業務を行なっているということを知りました。当時は、舞台の大道具の仕事をしていたので、展覧会の裏方という仕事に魅力を感じて、応募したんです。

 

ー以来、展覧会の裏方一筋25年、というわけですね。

 

藤原 この仕事の実際がどんなものか、最初はよく知りませんでしたが、やっているうちに美術館・博物館の学芸員の方をはじめ、お客様たちとの繋がりができて楽しくなって、この世界の魅力にハマっていった、という感じですね。

 

ーおふたりは、美術品輸送というお仕事、ご存知でしたか?

 

森内翔澄さん(ヤマト運輸/以下、森内) 私は大学で国際関係を学んでいたので、じつは、通関や国際関係の仕事を志望して入社したんです。けれども、4月1日の辞令の際に出た紙を見たら、「美術品輸送」と書いてあって、驚きました。

 

ー最初から美術品輸送を志望していたわけではなかったんですね。

 

森内 そうなんです。しかも、あとで知ったことですが、美術品輸送はすごく人気のある部署なので、配属後も同期からはどんな面談をしたら、美術品輸送に配属してもらえるのかと聞かれたりして(笑)。そして、楽しく仕事をしているうちに、気付いたら10年が経っていました。

 

金子信久(府中市美術館/以下、金子) 森内さん、外国にもいらっしゃいましたよね?

 

森内 はい、研修生としてオランダに一年いました。その時は美術品輸送部門から離れて、国際宅急便ですとか、引越しとか、そういうお仕事をしていました。

 

ーそして現在、また美術品輸送部門にいらっしゃるのは、改めてご希望を出して、ということですか?

 

森内 はい。美術に戻りたいです、という希望を出して、戻らせていただいたんです。

 

ー三宅さんはどうして、このお仕事に就かれたのですか?

三宅璃さん(ヤマト運輸/以下、三宅) 私は最初から美術品輸送部門に入りたいと希望して、応募したんです。

 

ー学生時代、何か美術に関わるようなことを勉強しておられたのですか?

 

三宅 学芸員の資格の勉強をしていて、できることなら美術に関わる仕事がいいなと思っていたんですが、なかなかなくて。それで、物流業界で何かないかと探していたら、美術品輸送というお仕事があることを知って、志望しました。

 

ー実は、御社では、宅急便よりも前から美術品輸送をやっておられたんですよね。

 

森内 そうなんです。1958年の「インカ帝国文化展」が最初です。

 

ーなんと、60年以上もの歴史ですね。これまでに、様々な美術品を運んでこられたと思いますが、実際に携わられた中で、印象に残っている作品があれば、教えてください。

 

藤原 自分の中でいちばん強烈だったのは、ダミアン・ハーストの作品です。真っ二つになった本物の牛が、ホルマリン漬けにされた作品なんですが、非常に印象に残っています。

 

音ゆみ子(府中市美術館/以下、音) 《母と子、分断されて》という作品ですね。

 

ー大きな作品ですよね、何人ぐらいで運ぶんですか?

 

藤原 ダミアン・ハーストくらいの作家さんになると、運搬専門のスタッフも来日します。それに、我々日本のスタッフと合わせて、全部で8人~10人くらいで作業しました。

 

ー海外の作品も多いと思いますが、向こうの美術品輸送の方との交流、というのもあるんですか?

 

藤原 スタッフが海外から来る場合は、現場でコミュニケーションをとりながら一緒に進めますが、多くの場合は、事前に学芸員の方が海外に調査にいかれますので、我々は、学芸員の方の指示に従って作業をすることになります。

 

ー海外のやり方と日本のやり方、違うなあというようなことはありますか?

 

藤原 僕は海外での展示の経験は少ないのですが、絵画に限って言いますと、海外のすごく大きな作品は特殊な展示の仕方をすることがあるので、日本とはやり方が違うんだな、と思ったことはあります。

 

 

音 海外からクーリエの方がいらっしゃると、皆さんのお仕事にものすごく感動して帰られますよ。すごく丁寧だって。

 

ークーリエとは、海外の輸送担当の方のことですか?

 

音 海外の美術館などから作品をお借りする場合、作品と一緒に所蔵館の方が来日して、日本での展示作業に立ち会うことが多くあります。その方たちのことを、クーリエと言います。

 

ーなるほど。では、そのクーリエさんたちは、どこにそんなに感動なさったんでしょうね?

 

音 全然違うんです! 先日、海外で現地の業者さんの作業を見る機会があって、その時初めて、そうおっしゃったクーリエの方の気持ちがよくわかりました。今回、改めてふつう展でのお仕事を拝見していても思いますが、作品の搬入・搬出ひとつとっても、本当に本当に丁寧です。

 

ーでは、搬入・搬出の際に、どんな点に気をつけておられるのですか?

 

藤原 いろいろありますが、たとえば、段差などで作品に衝撃を与えないことです。エレベーターの乗り降りの際にも、きちんとベニヤ板を敷いて段差を極力なくすなどして、できる限り衝撃を少なくするように気を使つけています。

 

ーそういう点では、美術館・博物館さんなら、搬出・搬入にもある程度の広さもあるので大丈夫そうですが、個人のお宅などでは大変なこともありそうです。

 

藤原 そうですね。たとえば、山の中にあるお寺さんなどで、トラックが入っていけない場合などは、みんなで人力で運んだり、という経験もありますね。

 

ーお寺さんだと、襖絵など大きな作品もあったりするので、さらに大変そうです。

 

藤原 そういったことも含めて、学芸員の方と一緒に事前に作品が展示または保管されている場所に行くことも大切です。そもそも動かすこと自体が、作品にとってはリスクになるので、そのリスクを軽減させる方法はないか、というのを下見の時に考えさせてもらうようにしています。

 

ー下見をなさることは多いんですか?

 

藤原 学芸員の方が調査に行かれた際に撮影した写真で状況判断できることも多いのですが、それだけでは不安だという場合には、同行させていただくようにしています。

 

金子 例えば、2019年の「へそまがり 日本美術」展に麟祥院の襖絵を出品する際、下見に来ていただきました。

 

ー下見して、搬出・搬入口の確認、ということですか?

 

金子 それもありますし、あとは、現場で細かく採寸して、事前にきちんとした運搬用の箱を用意してもらいました。

▲京都の麟祥院さんから作品を搬出するところ。ぴったりサイズの箱に梱包して運んでくれました。2019年開催の「へそまがり日本美術」展にて。

 

たくさんお話を聞かせていただきました。次回に続きます、お楽しみに!

(図録編集チーム、久保)

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