「ふつう展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「ふつう展」日記は、「ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります 京の絵画と敦賀コレクション」展、略して「ふつう展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


「美術品輸送」というお仕事のこと、聞きました!(後編)

 

「美術品輸送」という部門があるのをご存知でしょうか? 美術展の開催には欠かせない、そのお仕事について、今回、「ふつうの系譜」展を担当してくださったヤマト運輸の方々にお伺いいたしました(画面を下にスクロールでインタビュー前編、ご覧いただけます)。

▲ふつうの系譜展会場で、お話を聞かせてくださったヤマト運輸の方々。左から森内翔澄さん、藤原大さん、三宅璃咲さん。

 

ー展覧会の作品の梱包から輸送、展示、撤収と展覧会にまつわる幅広いお仕事をなさっておられますが、事前に、今回はこれこれこういう作品を展示するのだと、全部わかっているものなんですか?

 

森内翔澄さん(ヤマト運輸/以下、森内) 基本的にはわかっています。

 

ーじゃあ、細かな作品リストのようなものが提出されるわけですね。絵柄なども含めて、どんな作品かわかっている。

 

金子信久(府中市美術館/以下、金子) いやあ、耳が痛いです(笑)。

 

ー展覧会直前は皆さんお忙しいから、予定通りに進めるのは大変そうですね。たとえば、今回のふつう展で言えば、全体を統括なさっているのは、どなたなんですか?

 

三宅璃咲さん(ヤマト運輸/以下、三宅) 私です。営業として府中市美術館さんを担当させていただいています。

 

音ゆみ子(府中市美術館/以下、音) 営業さんは、現場での作業もなさるので、本当にお忙しいんです。ですから、三宅さんから、書類などの催促があったりして、こちらから折り返し連絡をすると、「三宅は現場です」となったりするんです。

 

金子 他の現場の作業に出ながら、頭の中では「府中からリストが来ないよ」、となっているわけです。

 

ーいくら学芸員が忙しくても、美術品輸送のご担当としては、事前にどうしても知っておかねばならないことがあるんですね。

 

森内 そうなんです。輸送・梱包するにあたって重要な、サイズや形状について詳細に教えていただきます。そのほか、箱の有り無しや作品の状態において気をつけるべき点など、こちらが対応すべきポイントについて、事前に情報提供していただくようにしています。

 

ー梱包とおっしゃいましたが、これは包むの困ったなあ、みたいのありますか?

 

藤原大さん(ヤマト運輸/以下、藤原) 包むの困ったなあ、というのは……ああ、飴細工というのがありましたね。

 

ー飴細工!? 飴細工を美術品として運んだ、ということですか?

 

藤原 はい。あるイベントで、飴細工を美術品として運んでほしいといわれたんです。

 

ー大きいものですか?

 

藤原 かなり大きかったですね。そうですねえ、ちょっとしたクリスマスツリーみたいな大きさをイメージしていただければいいかと。

 

ーそれは、確かに包むのも運ぶのも難しそうですね。

 

藤原 一生懸命作ったパティシエさんご本人は、「壊れてもいいから」とおっしゃるんですが、壊しちゃまずいのでがんばりました(笑)。

 

ーそれで、どのように包んだんですか?

 

藤原 クリスマスツリーの土台に当たる部分だけ箱を作って、そこに固定して載せました。あとは、弊社でよく使う紙紐があるんですが、それで危ないと思われるところを全部縛って、輸送しました。

 

ー仏像みたいに。

 

藤原 そうですね。

 

ー飴に紙がくっついちゃいませんか?

 

藤原 飴細工を支えている針金の部分があって、そこをピンポイントで狙って縛るんです。

 

ーなるほど。展示についてお伺いします。この展示は面白かった、というようなものはありますか?

 

藤原 現代アートの展覧会などは、作家さんと一緒に作り上げていくので、まるで文化祭をやっているような、和気あいあいとした雰囲気もあって、とても面白いですね。それと、自分の知らない作品に出会えた時は、面白いと感じます。府中市美術館さんでは、自分が今まで知らなかったかわいらしい作品が出てきたりすることも多くて、展示していて面白いなあと思いますね。

 

ーそれは嬉しいですね。普段から美術はお好きなんですね。

 

藤原 仕事で携わっているので、見る機会は多いです。

 

音 逆に私は、藤原さんからこの展示が面白いよ、と教わることもあるんですよ。実際に、展示をなさった藤原さんがおっしゃるなら間違いないと思って、行くようにしています。

 

ーそれにしても、展示の様子を拝見していますと、作業現場の整理整頓がすごーくお上手です。普段から整理整頓はお得意なんですよね。

 

藤原 それを言われると……。会社のロッカーや自分の棚は、人には見せられない状態のこともあります(笑)。

 

ーなんと! それは、逆にすごいですね。仕事のスイッチが入ると、整理整頓ができちゃうわけですね。

 

藤原 作品がケースに入る前は、余計なものにひっかけて壊してしまったり、ということも考えられるので、そういったリスクをなくすために、整理整頓は非常に重要です。ですから、現場では、整理整頓をするように常に心がけているんです。

ー掛軸を掛けたり、屛風を開いたり、素人としては単純に、「楽しそうだなー」と思いますが、いかがですか?

 

藤原 そうですね、作品を開ける時、「どういうのが出てくるのかな」という楽しみは、やはり、ありますね。

 

ー今回の展示の中で、印象に残った作品はありますか?

 

藤原 正直に申し上げますと、作業の間は仕事に集中してしまうので、美術作品をじっくり「鑑賞する」ということはないんです。

 

ーお仕事中は気が張ってらして、楽しく作品鑑賞、というわけにはいかないものなんですね。

 

藤原 気を引き締めているよう、心掛けています。事故をなくすには緊張感を持っていることが大事ですから。

 

音 輸送・展示をしてくださった皆さんが、開幕後に「展示の時にちゃんと見られなかったから」と、展覧会に来てくださったりすると、すごく嬉しいです。

 

藤原 今回の展示も、後ほど、改めてゆっくり拝見するのを楽しみにしています。

 

掛軸や屛風といった日本美術の作品から、ダミアン・ハーストのような現代美術、さらには飴細工まで!! 実に多様な作品を梱包して、輸送して、展示して、さらに撤収して、ご返却するという、美術品輸送にまつわる一連のお仕事をなさっている方々──それぞれに、お仕事に対する熱い使命感と情熱を持っておられ、とても素敵でした!

 

展示作業中のお忙しい合間を縫って、インタビューに応じてくださった皆さん、どうもありがとうございました!

(図録編集チーム、久保)

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