「ふつう展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「ふつう展」日記は、「ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります 京の絵画と敦賀コレクション」展、略して「ふつう展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


作品のお返しが終わりました。

6月19日、借用作品のご所蔵先へのお返しの行脚が、すべて終わりました。へそ展は、これで本当におしまいです。

旅先では、所蔵先の方々がへそ展の盛況を喜んでくださり、とても嬉しいことでした。

   

 

そして会期中、会場では45,731人のお客様が、おかしな絵を見て笑い、徳川将軍の絵にあれこれ想像を膨らませ、はたまた苦さに満ちた寒山拾得の絵の前では、一緒になって苦い顔をして、心の底から楽しみ、味わってくださいました。このことへの感謝が、閉幕して一ヶ月以上経った今、心にあふれています。

ある方が「(お客様もスタッフも)みんながハッピーになれた展覧会でしたね」とおっしゃったのですが、本当にそんな気がしています。

さらに、会場には来られなかった多くの方が、書店やネットで図録を買ってくださり、今なお、図版と解説をつき合わせながら楽しんでくださっていることも、府中市美術館にとって大きな喜びです。

 

「春の江戸絵画まつり」は、そう冠するようになる前の展覧会も含めれば、へそ展で15回目です。「へそまがり」という言葉をタイトルにするのは、企画担当者としては勇気のいることでした。ですが日本美術の歴史や、禅画、俳画、文人画など、さまざまなジャンルの思想的な成り立ちに本気で向き合った結果、大真面目に思いついた言葉でした。

決してウケを狙ったわけではありません。2014年の「江戸絵画の19世紀」展の時に、図録を制作する出版社の編集者の方から「これ、仮のタイトルですよね?」と言われたことがありましたが、それと同じくらい、展覧会の内容をできるだけそのまま表そうとしたネーミングでした。「へそまがり」という言葉が、少しでも作品の感じ方を広げるきっかけになったなら、大変幸せです。

これからも、愉快とか硬いとか、派手とか地味とか、テーマやタイトルの印象だけにとらわれずに、江戸絵画が私たちにどんなことを見せてくれるのか、どんな思わぬ世界に連れていってくれるのか、そんなことを少しずつ探りながら、大切に伝えられてきた作品と現代の人たちとをつなぐ仕事をしていきたいと思っています。

へそ展で初めて府中市美術館に来てくださった方、美術館の存在を知った方も、大勢いらっしゃるはずです。そしてまた、今まで春の江戸絵画まつりに何度も足を運び、応援、叱咤激励してくださった方も大勢いらっしゃいます。そのすべての皆様に、府中市美術館として心から感謝申し上げます。

さて、来年の春の江戸絵画まつりでは、敦賀市立博物館のコレクションをご覧いただきます。同館には素晴らしいクオリティーの作品が多数ありますが、施設の関係で、一度に多くの作品を展示することはできません。それを眺め渡せるチャンスとなるわけです。

同館のコレクションは、やまと絵、円山四条派、復古大和絵、岸駒や原在中の作品など、「きれい」で、うっとりするほど典雅なものばかりです。その特徴を大まかに言えば、伊藤若冲や曽我蕭白ら、今人気の「奇想の画家」を除いた京都の画家のコレクションと言えるかもしれません。つまりは「奇想以外」の系譜、強いて言えば、「ふつうの系譜」です。

もはや、若冲が江戸絵画のスタンダードだと思う人も少なくない昨今です。「奇想とは何か?」「ふつうとは何か」。敦賀コレクションに若冲や蕭白の作品も加えて、こんなことを考える面白い展覧会にできないものかと、いま懸命に内容とタイトルを考え中です。

どうぞ来年も、春の府中へお越しください。心からお待ちしております。

(府中市美術館、金子)

 

開幕前のバナー(懸垂幕)の準備。展覧会に来てくださった方は、「おや?」と思われるかもしれません。
入口の色が鮮やかすぎないか、実際に会場が出来上がるまで心配でした。
来年も同じ場所に「春の江戸絵画まつり」のポスターが掲載されます。お楽しみに!

 

 

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