「ふつう展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「ふつう展」日記は、「ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります─京の絵画と敦賀コレクション」展、略して「ふつう展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


「ふつう展」の開幕と閉幕、これからのこと

ふつうの系譜展、本来ならば、今頃は二カ月間でたくさんの方々に、敦賀市立博物館の素晴らしいコレクションを見ていただけたことの感慨に浸っていた頃かもしれません。

ところが、今回、途中で閉幕という想像もしなかった事態が起こりました。前期、後期ほぼ全点入れ替えの予定が、前期の途中で閉幕となったため、全作品をお披露目することは叶いませんでした。担当の金子学芸員に、開幕から今までのこと、そして今後について話を聞きました。

 

──企画して、準備して、ようやく開幕に漕ぎ着けた展覧会、途中で閉幕となってしまって、本当に無念ですね。

今思えば、開幕できたことがしあわせだったと感じています。17日間のことでしたが、三千人を超えるお客様に来ていただけました。その間にグッズや図録もたくさんお買い上げいただきました。展覧会というのは何度担当しても、実際に開いてみるまで不安なものですが、今回も、「ふつう展、楽しかった」という感想を、アンケートやSNSでたくさんいただけて、ほっとしました。

▲仮フランス装の図録、印刷も本当にきれいな自信作です。

 

▲応挙の子犬をあしらった箱入りの豆菓子が大好評でした。

 

──前期の途中で休館となり、後期を一日も開館することができませんでした。

本当に残念です。各地で美術館が休館となっていく中で、感染症対策をしつつ開館していた際には、「府中市美術館、がんばれ」という励ましのお電話があり、電話を受けた職員も、その話を聞いた者も、みんなすごく喜んでいました。SNSでもたくさんの応援をいただき、ありがたいと思いましたが、途中閉幕はやむを得なかったです。

▲後期展示の様子。

 

──会期延長という選択肢はなかったのですか?

そのようなご要望もいただきました。どうするべきか、館内でも真剣に意見を出し合い、色々な意見が出されました。しかし、結局のところ、果たしていつまで延長すれば再び開館することができるのか、その見通しが立たなかったのです。「楽しみにしていた」という声を寄せてくださる方々もたくさんいらっしゃって、多くの方が「見たかったのに」と感じてくださったと思うと、本当に残念です。館内も、「悔しい」という空気でいっぱいです。

 

──話は変わりますが、「ふつうの系譜」というタイトルについて、どんな反応がありましたか?

みなさん、聞いた瞬間、にこやかになってくださるので、いいタイトルを選んだなと思っています。敦賀コレクションの素晴らしさを、どうしたら多くの方にお伝えできるのか──ということを考えて考えて、たどり着いたタイトルですから、好評で嬉しいです。

 

──美術ファンの皆さんにとっては、辻惟雄さんの『奇想の系譜』をすぐに思い起こさせるタイトルですよね。昨年は展覧会もあって話題になりましたし。

「ふつうの系譜」というタイトル案は、スタッフから出たのですが、敦賀コレクションを表すのに言い得て妙だと思ったのと同時に、美術の世界で使うには引っかかりがあるこの言葉を、あえて使ってみたいとも考えたんです。そして、『奇想の系譜』にひっかけたのと同時に、「美術はきれいが当たり前」という、敦賀コレクションの最大の魅力をストレートに伝える意味を「ふつう」という言葉に込めました。ですから、広報でもそのことを前面に出してきました。

▲展覧会の冒頭は、「奇想」の画家の作品が並びます。写真は後期展示の様子。

 

──『奇想の系譜』を知らないお客様もたくさんいらっしゃいますしね。

もちろんそうです。一人でも多くの方々に楽しんでいただけるように、ということは展覧会を企画する際に常に頭にあります。その結果、たとえ『奇想の系譜』を知らなくても、「そうだよな、アートといっても気持ち悪いものとか、ぎょっとするものもあるけど、きれいは普通だよな」と思っていただけたようです。また、当時はそれが「ふつう」でも、今見ると、実はかなり個性的と言えるようなものがたくさんある、などと、それぞれの方が感じたり考えたりしてくださったようです。これはとてもうれしいです。

 

──何よりも、「ふつうの系譜」展も、「春の江戸絵画まつり」の一つですしね。

そうなんです。「春の江戸絵画まつり」では、江戸絵画のいろいろな魅力や私たちにとっての価値を、いろいろな角度から眺めてみよう、そうして、それまで気づかなかった楽しさや魅力を見つけていこうとしています。わかりやすい内容もあれば、少し変わった内容の展覧会もあるし、華やかなものもあれば、地味なものもありますが、当館としては、そうやって、毎年来てくださる多くのお客さまと一緒に、江戸絵画のいろいろな楽しみ方を探していこう、楽しみ方の幅を広げていこう、という気持ちで開催しています。時には少し変わったテーマ、ややマニアックに思えるようなテーマがあってもいいとも思いますし、そこからまた、さらに興味を持っていただけたら、と考えています。莫大な利益を目的としない、公立美術館が自前の予算で開催する展覧会だからこそできるのかもしれません。

 

──それにしても、「ふつう展」はこのまま終わり、では何とも寂しいです。

展覧会は、テーマを考えて、作品をリストアップして、どんなところに興味を持っていただけるか、どんなイメージで広報するかを考え、宣伝物を製作したり、PRにつとめたり、そしてかなり手間をかけて図録を作って、会場を考え、作品を並べる……という一連の作業です。それは言うまでもなく、多くの方々に楽しんでいただくためです。今回、その最終目的が、十分には達成できませんでした。会場に展示はしたものの、一度もお客様に見ていただけなかった作品のことを思うと、作品もかわいそうでなりません。

 

──いつか、もう一度皆さんに「ふつう展」をご覧いただける機会があるといいですね。

本当にそう思います。幸いふつう展の場合は、いろいろな所から作品をお借りしてくる展覧会とは違い、敦賀コレクションが主ですから、これで終わりと決めつけなくてもよいのではないでしょうか。「ふつうの系譜」展は、まだ完結していないと思っています。

 

──今後の展覧会のことも心配です。

新型コロナウイルスの流行を経験し、これからは展覧会のあり方が変わるだろう、とか、新しいアートとの付き合い方が生まれるだろう、と、もうおっしゃっている方もいて驚かされます。でも、今までのような展覧会がちゃんとまた開けるように、原状回復を目指すべきではないかと思います。実物の作品が目の前になければ成り立たない美術の楽しみ方もあるわけですから。インターネットがいくら便利になっても、インターネットの世界と現実は違いますよね。秋には当館20周年記念の「動物の絵 日本とヨーロッパ」展も控えていますし、なんとか、皆さんにいい形で作品を見ていただけるように、色々な手立てを考えていきたいと思っています。

 

3月からこの方、楽しみにしていた展覧会が行く前に休館、そのまま閉幕……なんていうことばかりで、美術ファンの方々は本当に残念な気持ちでいらっしゃることと思います。今回、金子学芸員へのインタビューでは、お話の最後に、今年の秋開催予定の「動物の絵 日本とヨーロッパ」展に向けた希望のあるお話も伺えました。今後も注目していきたいと思いますので、皆さんも楽しみになさっていてください!

(図録編集チーム、久保)

 

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