徳川家光の描いた動物画が人気です。さりげなくTwitterで紹介するだけで、「いいね」をしてくださる方が大勢いらっしゃいますし、「家光の絵が今回の展示作品の中で一番好き」という方も、少なくありません。私ももちろん大好きです、家光の動物画。家光の絵のどこがそれほどまでに、私たちの心に響くのでしょうか? その理由を、本展の企画者の一人である府中市美術館の金子学芸員に聞いてみました。
▲徳川家光の絵が並ぶ「家光の部屋」
ー家光の動物画、すごい人気ですね。私も好きですが、どこがいいのかと尋ねられると、うまく説明できなくて困ってしまいます。
金子信久(以下、金子) そうですよね。どの系列にも属さない絵ですから、説明が難しいのかもしれません。以前、BS日テレの「ぶらぶら美術・博物館」の収録の際に、山田五郎さんが「ルソークラスの画家」という表現をなさっていましたが、確かに、家光の絵にはルソーに通じるところがあるように思います。
▲徳川家光「木兎図」(部分)下関市立歴史博物館寄託 前期(10/24まで)展示
ー下手だということですか?
金子 意図していなことの強さ、と言ったらいいかもしれません。例えば、ルソーの絵は面白いけれど、ルソーのマネをした数多の作品のほとんどは、面白くないですよね。家光の絵は、見れば分かるように、非常に丁寧に、一生懸命に描かれています。おそらく本人も自分が普通の意味で「上手い」とは思っていなかったはずですが、本人の評価や意図はさておき、私たちが今見ると、まるでヘタウマの絵のようで、そこが面白いと映るのではないでしょうか。
▲徳川家光「兎図」(部分)前期(10/24まで)展示
ーでは、家光は何を意図していたのでしょうか?
金子 意図は色々あると思いますが、まず第一に「リアリズム」でしょう。作品からは、非常に細やかに動物の姿を再現しようとする意図がはっきり見て取れます。例えば「兎図」ならば、毛のもふもふ感にこだわって、紙を筆で撫でるような描き方をしています。また、耳の輪郭を破線で表していることも重要です。本物のウサギの耳には輪郭がないので、形をはっきりさせることと、本物のように描くことの間をとって、このような表現になったのだと思います。
▲耳と尻尾の輪郭は破線。
ー確かに、とてもリアルです。それでも、家光は自分で「上手い」と思っていなかった?
金子 家光は将軍です。そばには、狩野探幽、安信、尚信らの御用絵師がいて、彼らを呼んでは絵を鑑賞したりしていたことが記録でわかっています。日頃から一流の書画に親しんできたので、どんな絵がいわゆる「上手い」絵なのか、ということはもちろんわかっていたでしょう。
ー確かに、上手い系の絵もありますよね。
金子 そうです。今回の出品作では「竹に小禽図」などは狩野派風の描き方です。お手本通りに描こうと思えばできたんです。それでも家光は、あえて、見慣れた絵画とは違う描き方をしたのだと考えています。今風の言葉で言えば「天然」で良いのだという確信があったのだと思います。
▲徳川家光「竹に小禽図」(部分)後期(10/26から)展示
家光の絵の魅力について、お話しはまだまだ続きます。次回をお楽しみに!
(図録編集チーム、久保)