「ふつう展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「ふつう展」日記は、「ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります 京の絵画と敦賀コレクション」展、略して「ふつう展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


家光をめぐる散策その2ー久能山編

みんな大好き、家光作品の魅力は語り尽くせませんが、その一つは「眼」だと思っています。押しも押されもせぬ代表作となった兎も、本当にたくさん描いた木兎も、すべてその「眼」の描かれ方に「やられた」人は多いのではないでしょうか?

 

なかでも私がいちばん惹かれたのが、久能山東照宮博物館蔵の「枯木梟図」。

兎や木兎と違って、「耳」がないだけで、「見つめられてる」感がぐっとアップして、ちょっと不思議な感情を抱いてしまうのです。

 

その久能山東照宮所蔵の「ふくろう」が、動物展の後期展示で府中市美術館へやってきました。作品は府中でじっくりご鑑賞いただくとして、今回はこの「ふくろう」をめぐる散策レポートです。

 

久能山東照宮といえば、徳川家康がその遺言によって葬られ、息子・秀忠、孫・家光が整備した、家光ゆかりの地の中でも最重要スポットのひとつ。参道の「1159段の石段」はあまりにも有名で、いつかは訪れてみたいと思っていたのですが、そんな話を金子学芸員としていたところ、

 

「久能山は、8月に行くべきです」

 

とのこと。

 

その理由については深く掘り下げなかったのですが、それでは、8月中になんとしても行かなくては、と、取り損ねていた夏休みを取得して行ってみたところ、散策どころか修行のような事態になりました、というレポートです。

▲この「まなざし」の虜になってしまったばかりに……

 

 

久能山へは徒歩で「1159段の石段」を登るルートと、ロープウェイの2つのルートがあり、「枯木梟図」はロープウェイで府中にやってきました。私は徒歩で登ってみます。

 

静岡駅からバスを乗り継ぐこと約50分、久能山下バス停に降り立ちます。

▲バス停から参道をめざして歩くと、すぐにお山の姿が。石段も見えます。久能山といえば、石垣いちごですね

 

▲一ノ鳥居に辿り着きました。さあ、いよいよ1159段の始まりです

 

麓からは、ややなだらかに石段が続きますが、進んでも進んでも石段です。

▲進んでも

 

▲進んでも

 

▲進んでも

 

眺めが変わりません。

 

当日の気温は31.8℃。曇り空のため猛暑というほどではありませんでしたが、湿気がまとわりつくような、じっとりした暑さで早くもバテてきました。

 

200段ほど登ったあたりからでしょうか、駿河湾が眺められるようになり、景色に変化が。

 

▲木々の間から海が!

 

それでも、まだ石段は続きます。カメラ機材を少し減らしてくればよかったと後悔するなどしながら、さらに上を目指します。

 

▲上を見上げると、石段は続くよどこまでも……

 

 

▲お詣りを済ませ、参道を下っていく母娘とすれ違いましたが、その姿が、輝いて見えました

 

▲600段、だいたい半分ですね

 

 

この辺りで完全に息が上がってしまいました。さすが武田信玄公が要害と目をつけ城砦を築いた山。一筋縄ではいきません。

 

▲眺めはどんどんよくなりますが、あまり見ている余裕もなく……

 

▲一ノ門に到着。あと一息です!

 

▲ついに楼門。重要文化財です

 

▲扁額は後水尾天皇筆

 

▲これも重要文化財の神厩。左甚五郎作と伝わる神馬の像が納められています

 

▲鼓楼。重要文化財

 

▲そして、権現造りの国宝、御社殿。二代将軍秀忠、つまり家光のお父さんの命によって造営された、最古の東照宮建築です

 

本殿の裏手に、徳川家にとってとても大切な場所があります。

 

▲神廟。徳川家康埋葬の地です。創建当初は木造でしたが、寛永17年(1640)に徳川家光が石造の宝塔に造り替えました

 

家光が祖父のために拵えた宝塔。これもまた家光の感性が生み出したものであり、久能山が家光にとって特別な場所の一つである証なのです。

 

久能山東照宮博物館には歴代将軍の武器・武具のほか、「動物展」にも作品が出品されている、谷文晁、狩野養信の作品なども展示されていました。

 

▲久能山東照宮博物館

 

暑さの中の、修行のような「1159段」の先は、見どころだらけで、疲れも吹き飛びました。そんな久能山からやってきた「枯木梟図」。ぜひ、後期展示でお楽し

みください。

おまけ。

▲静岡に戻って、家康が築いた駿府城も散策。天守台発掘調査の様子が公開されています。おすすめです。

 

(図録制作チーム、藤枝)

 

 

 

Copyright©2022 府中市美術館 All Rights Reserved.