「ふつう展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「ふつう展」日記は、「ふつうの系譜 「奇想」があるなら「ふつう」もあります 京の絵画と敦賀コレクション」展、略して「ふつう展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


展覧会を支える修復家さんの仕事

先日、家光の「木兎図」の修復の様子をご覧いただきましたが、今回は西洋編です。

 

日頃から、美術館は修復家さんにとてもお世話になっています。収蔵品の修理だけでなく、保存方法を相談したり、光学調査をお願いしたり、とても頼りになる存在なのです。さらに実は、展覧会でもとても重要な仕事をお願いしています。

 

それは展示の前後に行う作品の状態確認です。特に、海外から作品を輸送する場合や、複数の会場を巡回する展覧会の場合、修復家による入念な確認作業は欠かせません。

 

「動物の絵」展をご担当いただいたのは、「修復研究所21」所長の渡邉郁夫さん。油彩画の保存修復の第一人者で、海外の文化財の修復調査などの経験も豊富です。ヨーロッパの美術館の学芸員や修復家からの信頼も厚く、今回ぜひにとお願いしました。

 

 

画面や額を点検し、すでに傷や欠損のある箇所をチェックし、「作品調書」を作成します。この時、これから破損の恐れがある場所、取扱の注意点なども記入します。修復家さんがお医者さんだとすれば、作品調書はカルテのようなもの。会期終了後に作品に変化がないか、この作品調書をもとにしっかりと確認してから、所蔵館やご所蔵家に作品をお返しします。

▲ナント美術館所蔵の《鳥のコンサート》。ライトやルーペを使って、作品の隅々まで確認します。

 

▲輸送前に所蔵館が作成した作品調書。この状態から変化のないことを確認しつつ、新たに気づいたことや注意点を書き加えていきます。

 

 

幸いなことに、今回は必要はありませんでしたが、展示や輸送に際して危険な箇所が見かった場合、ご所蔵家や所蔵館に承諾を得た上で、例えば、額のひび割れを固定するなど、応急的な処置をしていただくこともあります。

 

 

▲額裏のチェックも大切です。

 

海外から作品を借りた場合、通常、こうした作品チェックは、修復家、私たち開催館の学芸員、所蔵館の学芸員の3者で行います。しかし、今回、渡航制限のため来日できなかった所蔵館の学芸員は、オンラインで作品のチェックを見守ってくれました。

▲輸送用木箱を開梱する際もビデオカメラでしっかり撮影。所蔵館にも確認してもらいながら行います。

 

 

この度の展覧会では、国内外から沢山の作品をお借りしました。どれもとても貴重な作品です。お預かりした大切な作品を、安全に安心して展示できるのは、渡邊さんのおかげです。きめ細やかで丁寧なお仕事で、展覧会の一番大切な部分をしっかりと支えてくださっています。(府中市美術館、音)

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