みんな大好き、家光作品の魅力は語り尽くせませんが、その一つは「眼」だと思っています。押しも押されもせぬ代表作となった兎も、本当にたくさん描いた木兎も、すべてその「眼」の描かれ方に「やられた」人は多いのではないでしょうか?
なかでも私がいちばん惹かれたのが、久能山東照宮博物館蔵の「枯木梟図」。
兎や木兎と違って、「耳」がないだけで、「見つめられてる」感がぐっとアップして、ちょっと不思議な感情を抱いてしまうのです。
その久能山東照宮所蔵の「ふくろう」が、動物展の後期展示で府中市美術館へやってきました。作品は府中でじっくりご鑑賞いただくとして、今回はこの「ふくろう」をめぐる散策レポートです。
久能山東照宮といえば、徳川家康がその遺言によって葬られ、息子・秀忠、孫・家光が整備した、家光ゆかりの地の中でも最重要スポットのひとつ。参道の「1159段の石段」はあまりにも有名で、いつかは訪れてみたいと思っていたのですが、そんな話を金子学芸員としていたところ、
「久能山は、8月に行くべきです」
とのこと。
その理由については深く掘り下げなかったのですが、それでは、8月中になんとしても行かなくては、と、取り損ねていた夏休みを取得して行ってみたところ、散策どころか修行のような事態になりました、というレポートです。
久能山へは徒歩で「1159段の石段」を登るルートと、ロープウェイの2つのルートがあり、「枯木梟図」はロープウェイで府中にやってきました。私は徒歩で登ってみます。
静岡駅からバスを乗り継ぐこと約50分、久能山下バス停に降り立ちます。
麓からは、ややなだらかに石段が続きますが、進んでも進んでも石段です。
眺めが変わりません。
当日の気温は31.8℃。曇り空のため猛暑というほどではありませんでしたが、湿気がまとわりつくような、じっとりした暑さで早くもバテてきました。
200段ほど登ったあたりからでしょうか、駿河湾が眺められるようになり、景色に変化が。
それでも、まだ石段は続きます。カメラ機材を少し減らしてくればよかったと後悔するなどしながら、さらに上を目指します。
この辺りで完全に息が上がってしまいました。さすが武田信玄公が要害と目をつけ城砦を築いた山。一筋縄ではいきません。
本殿の裏手に、徳川家にとってとても大切な場所があります。
家光が祖父のために拵えた宝塔。これもまた家光の感性が生み出したものであり、久能山が家光にとって特別な場所の一つである証なのです。
久能山東照宮博物館には歴代将軍の武器・武具のほか、「動物展」にも作品が出品されている、谷文晁、狩野養信の作品なども展示されていました。
暑さの中の、修行のような「1159段」の先は、見どころだらけで、疲れも吹き飛びました。そんな久能山からやってきた「枯木梟図」。ぜひ、後期展示でお楽し
みください。
おまけ。
(図録制作チーム、藤枝)