「動物展」日記

ひとつの展覧会の裏側には、展覧会を訪れただけでは見えない、さまざまなプロセスと試行錯誤があります。「動物展」日記は、「動物の絵 日本とヨーロッパ」展、略して「動物展」に関わるスタッフが、折々に皆さんにお伝えしたいことを発信するブログです。


家光をめぐる散策その1ー三島編

さて、動物展日記でも「散策」レポートを綴って参ります。

へそ展に続き動物展でも皆様を熱狂させている、徳川家光。
家光画伯、いや将軍をめぐる散策を2回に分けてお届けしようと思います。

ちなみに、家光をめぐってはへそ展日記で府中との不思議な縁について散策しましたので、ご興味のある方はお読みください。

図録の表紙にもなった、養源寺の「木兎図」。2019年の「へそまがり日本美術」展で初公開され、今回の展覧会を前に修復されたことは、図録やこのブログでもご紹介した通りです。ぜひ、図録でもご覧ください。

木兎図修復の様子
▲修復される木兎図

 

この修復が行われたのは、伊豆に工房を構える「春鳳堂」さん。三島駅から伊豆箱根鉄道に乗り継いで修善寺方面、大仁駅近くにその工房はあります。

乗り換えのために降り立った三島には家光ゆかりの地がある、ということで取材の前に少し散策してきました。

三島にはかつて「御殿地」と呼ばれたエリアがありました。御殿があった場所。そう、徳川家光が江戸から上洛する際の宿泊地が置かれていたのです。
三島市のwebサイトによると総面積は推定1万坪以上だったとか。1635年以降に将軍の上洛が行われなくなってからは廃止されたそうですが、現在もその面影が少しだけ遺されています。

御殿神社
▲御殿神社

 

御殿を護るために祀られていた稲荷神社がこの「御殿神社」です。街の景色に溶け込んで、まったくもって目立たず、ひっそりしていて通り過ぎてしまいそうですが、御殿地がここにあった証です。

御殿神社

お詣りを済ませ、御殿神社の前の道を少し歩くとせせらぎが。御殿地の東側を流れる「御殿川」です。

御殿川
▲御殿川

 

富士山の湧水をルーツとする四筋の川が流れ、水の都と言われた三島らしいこの風景を、家光も眺めたのでしょうか。そしてこの御殿地でも何か絵を描いたのでしょうか。せせらぎの音を聴きながら、そんなことを考えました。

御殿川沿いに三島駅方面へ戻る途中、気になるスポットに出会いました。

孝行犬
▲これです

 

日蓮宗の古刹・円明寺には江戸時代から「孝行犬」のお話が伝わっていて、その孝行犬の墓があるのです。
お寺の本堂の床下に暮らす母犬と5匹の子犬。ある日子犬のうち一匹が死んだことをきっかけに母犬が病に臥してしまいます。子犬たちは母犬のためにエサを集めるなど奔走しますが、必死の看病むなしく、母犬は半年後に死に、遺された4匹の子犬たちも後を追うように死んでしまったというのです。

孝行犬の墓
▲孝行犬の墓

 

その様子を見守っていたお寺の住職が供養のために建てたのがこの孝行犬の墓。毎年4月18日には供養祭が行われるのだとか。6匹の犬へのやさしいまなざしに、動物展のテーマに通ずるものを感じました。

孝行犬の墓
▲母犬の名「タマ」、子犬たちの名「トク」「ツル」「マツ」「サト」「フジ」が刻まれています。

 

家光に触れ、思いがけず動物へのまなざしについて考える。ついでのつもりの散策で、なんだかトクをした気分になりました。

家光をめぐる散策、次回は後期出品作に関連する散策をお届け予定です。

(図録制作チーム、藤枝)

 

 

 

 

 

展覧会を支える修復家さんの仕事

先日、家光の「木兎図」の修復の様子をご覧いただきましたが、今回は西洋編です。

 

日頃から、美術館は修復家さんにとてもお世話になっています。収蔵品の修理だけでなく、保存方法を相談したり、光学調査をお願いしたり、とても頼りになる存在なのです。さらに実は、展覧会でもとても重要な仕事をお願いしています。

 

それは展示の前後に行う作品の状態確認です。特に、海外から作品を輸送する場合や、複数の会場を巡回する展覧会の場合、修復家による入念な確認作業は欠かせません。

 

「動物の絵」展をご担当いただいたのは、「修復研究所21」所長の渡邉郁夫さん。油彩画の保存修復の第一人者で、海外の文化財の修復調査などの経験も豊富です。ヨーロッパの美術館の学芸員や修復家からの信頼も厚く、今回ぜひにとお願いしました。

 

 

画面や額を点検し、すでに傷や欠損のある箇所をチェックし、「作品調書」を作成します。この時、これから破損の恐れがある場所、取扱の注意点なども記入します。修復家さんがお医者さんだとすれば、作品調書はカルテのようなもの。会期終了後に作品に変化がないか、この作品調書をもとにしっかりと確認してから、所蔵館やご所蔵家に作品をお返しします。

▲ナント美術館所蔵の《鳥のコンサート》。ライトやルーペを使って、作品の隅々まで確認します。

 

▲輸送前に所蔵館が作成した作品調書。この状態から変化のないことを確認しつつ、新たに気づいたことや注意点を書き加えていきます。

 

 

幸いなことに、今回は必要はありませんでしたが、展示や輸送に際して危険な箇所が見かった場合、ご所蔵家や所蔵館に承諾を得た上で、例えば、額のひび割れを固定するなど、応急的な処置をしていただくこともあります。

 

 

▲額裏のチェックも大切です。

 

海外から作品を借りた場合、通常、こうした作品チェックは、修復家、私たち開催館の学芸員、所蔵館の学芸員の3者で行います。しかし、今回、渡航制限のため来日できなかった所蔵館の学芸員は、オンラインで作品のチェックを見守ってくれました。

▲輸送用木箱を開梱する際もビデオカメラでしっかり撮影。所蔵館にも確認してもらいながら行います。

 

 

この度の展覧会では、国内外から沢山の作品をお借りしました。どれもとても貴重な作品です。お預かりした大切な作品を、安全に安心して展示できるのは、渡邊さんのおかげです。きめ細やかで丁寧なお仕事で、展覧会の一番大切な部分をしっかりと支えてくださっています。(府中市美術館、音)

開館20周年記念展は、秋の江戸絵画まつり!

現在、春の江戸絵画まつり「与謝蕪村『ぎこちない』を芸術にした画家」展が開催中です。美術館のある公園の桜も見頃を迎え、お花見がてら、蕪村展に足を運んでくださる方も増えているようです。

 

この蕪村展の展示室の出口に、今秋の「動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり」展のポスターを設置しました。「春の江戸絵画まつり」によくお越しくださる方々の中には、「あれ、今年は秋も江戸絵画まつり?」と思われた、鋭い方もいらっしゃるかもしれません。

そうなのです。今年は秋も「江戸絵画」。今度の「動物の絵」展は、「春の江戸絵画まつり」シリーズなしには成り立たない展覧会なのです。今年で17回目を迎えた「春の江戸絵画まつり」シリーズでは、「動物絵画の100年」(2009年)と「動物絵画の250年」(2015年)と、これまでに2度、動物をテーマとした展覧会を開催しました。とくに、動物と人の心の関係にも注目した「動物絵画の250年」展の際に、これほど豊かに動物の絵を生み出した江戸時代は、世界的にもめずらしい動物絵画の宝庫ではないだろうかと思い始めました。これが、日本とヨーロッパの動物絵画を同時に眺める「動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり」展の出発点です。

サブタイトルは「ふしぎ・かわいい・へそまがり」としました。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、「かわいい」と「へそまがり」は、「かわいい江戸絵画」展(2013年)と「へそまがり日本美術」展(2019年)からとりました。江戸時代にかわいい作品が多く生み出されたこと、あるいは、きれいで立派なもの以外に心ひかれるへそまがりな感性が生んだ作品が日本で古くから愛されてきたこと、どちらも現在まで続く日本美術の大きな特徴です。日本の動物絵画を、ヨーロッパの作品とも比べようとする今回の展覧会にも、こうした視点を取り入れたいと考え、サブタイトルとしました。また、これまでの動物展のどちらでも、人が動物に感じる「神秘」に注目しています。今回もこの視点は欠かせないと考え、「ふしぎ」という言葉も加えました。

そして、この展覧会は府中市美術館の開館20周年展でもあります。春の江戸絵画まつりシリーズと、この20年間、主に秋に開催してきた西洋絵画の展覧会。20年の歩みを振り返るひとつの試みとして、そのふたつがタッグを組んで「動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり」展をお届けしたいと思います。

 

西洋絵画、日本の近代絵画、江戸時代以前の絵画も展示されますが、中心となるのは江戸時代の動物絵画です。「秋の江戸絵画まつり」として、楽しく、そして充実した内容の展覧会を開催できるよう準備を進めています。今後、準備の様子も「動物展日記」で発信していきますので、どうぞお楽しみに!

(府中市美術館、音)

 

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